古い機械の修理や部品交換が必要になったとき、手元にあるのが黄ばんだ紙図面やスキャンPDFだけというケースがあります。
紙図面を画像として保存するだけでは、寸法変更、部品の再製作、加工会社へのデータ入稿には使いにくいままです。継続して使用する図面なら、線や寸法を編集できるCADデータへ作り直す必要があります。
ただし、依頼内容を「図面をCADにしてください」とだけ伝えると、必要な形式や作業範囲が食い違うことがあります。まず、2D図面が必要なのか、3Dモデルまで必要なのか、元図面にない情報を補う設計作業も必要なのかを分けて考えます。
古い機械図面はスキャンするだけでは編集できない
紙図面をスキャンしてPDFや画像にすると、紛失や劣化への対策にはなります。
一方、スキャンデータは紙を画像として保存したものです。線、円、寸法、文字がCAD上の図形として登録されているわけではありません。
設計変更や寸法修正を行うには、画像を参考にしてCAD上で線や寸法を描き直す作業が必要です。
目的ごとの違いは次のとおりです。
| 作業方法 | 完成するデータ | 編集 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 紙図面のスキャン | PDF・JPEGなど | 原則できない | 閲覧、保管、社内共有 |
| 2D CADトレース | DXF・DWGなど | 可能 | 部品加工、寸法修正、図面管理 |
| 3Dモデリング | STEP・IGESなど | 可能 | 形状確認、干渉確認、加工準備 |
| 設計を含む図面作成 | 2D・3D CAD | 内容による | 新規部品、改造、構造変更 |
単に過去の図面を閲覧できればよい場合は、スキャンだけでも目的を達成できます。
今後、部品を作り直す、寸法を変更する、別形式へ変換する予定がある場合は、編集可能なCADデータとして作り直したほうが使いやすくなります。
古い図面をCAD化したほうがよい場面
すべての紙図面を一度にCAD化する必要はありません。
再利用する可能性が高い図面から優先します。
保守部品を再製作したい
古い設備では、メーカーが部品供給を終了していることがあります。
交換部品を加工会社へ発注するには、形状、寸法、穴位置、材質、公差などを確認できる部品図が必要です。
紙図面しか残っていない場合は、対象部品だけをCAD化する方法があります。
設備を改造したい
センサー、カバー、モーター、治具などを追加する場合、既存設備との位置関係を確認しなければなりません。
元の図面をCAD化しておくと、改造部分を追加した新しい図面を作りやすくなります。
図面を作成した担当者が退職した
図面の内容を理解している担当者が退職すると、手書きの注記や独自の記号を確認できなくなることがあります。
判読できるうちにCAD化し、不明点や変更履歴を整理しておくことで、技術情報を引き継ぎやすくなります。
取引先や加工会社を変更したい
以前の取引先が独自形式のCADデータを管理していると、新しい加工会社で開けない場合があります。
DXF、DWG、STEPなど、受け渡ししやすい形式へ変換しておくと、発注先の選択肢を広げられます。
図面が劣化している
紙の破れ、汚れ、変色、青焼き図面の退色が進むと、寸法や線を読み取れなくなります。
特に、再取得できない古い設備図面は、判読できる段階でデータ化したほうが安全です。
CAD化できる情報と復元できない情報を分ける
CAD化は、紙図面に記載されている情報を自動的に正しい設計へ変換する作業ではありません。
元図面に書かれていない情報は、そのままでは再現できません。
比較的そのままCAD化しやすい情報
- 外形線
- 穴や溝の形状
- 寸法
- 文字や注記
- 部品番号
- 表面粗さの記号
- 材質の記載
- 公差の記載
- 図枠や表題欄
線や文字が鮮明で、主要寸法が記載されていれば、2D CAD図面へ描き直しやすくなります。
確認が必要になりやすい情報
- 消えている寸法
- 判読できない文字
- 図面内で矛盾している数値
- 省略された裏側の形状
- 記載されていない板厚
- 不明な公差
- 材質や熱処理
- 現物と図面の相違
- 後から行われた現場改造
不明な部分を推測だけで補うと、加工後に部品が合わない原因になります。
読み取れない部分がある場合は、現物測定、追加写真、関連する組図、類似部品の図面などを用意します。
紙図面から依頼できる作業は4種類ある
「CAD化」という言葉には、複数の作業が含まれます。
見積もり前に、どこまで依頼したいかを決めてください。
紙・PDF図面を2D CADへ描き直す
既存図面の線、寸法、文字をCAD上で再作成する作業です。
次の用途に向いています。
- 紙図面を編集可能にしたい
- 寸法や注記を修正したい
- DXFやDWGで加工会社へ渡したい
- 社内の図面様式へ統一したい
- 部品図を電子管理したい
形状や設計内容を変更せず、元図面をデジタル化する場合は、トレースまたはCAD化として相談します。
2D図面から3Dモデルを作る
正面図、平面図、側面図、断面図などを基に、立体形状を作成します。
3Dモデルがあると、次の作業へ利用できます。
- 部品形状の確認
- 組み付け状態の確認
- 3Dプリント
- 加工会社へのデータ提供
- 新しい部品との干渉確認
- 3Dモデルから別角度の図面を作成
2D図面の寸法が不足している場合は、正確な3Dモデルを作れないことがあります。
3Dモデルから2D図面を作る
STEPやIGESなどの3Dデータはあるものの、加工用の部品図がない場合に行います。
3D形状を投影するだけでなく、寸法、公差、材質、表面処理、注記などを追加する必要があります。
加工に使う図面なら、どの情報を記載するかも依頼時に指定します。
既存CADデータを修正・変換する
古いCADデータを開けない場合や、取引先が指定する形式に合わせたい場合は、データ修正やフォーマット変換を依頼します。
主な作業は次のとおりです。
- 寸法の変更
- 穴位置の変更
- 不要な線の削除
- レイヤーの整理
- 図枠の差し替え
- 会社名や部品番号の変更
- 2Dデータの形式変換
- 3Dデータの形式変換
変換後も形状や寸法が維持されているか、使用するCADソフトで確認する必要があります。
元図面を送る前に確認すること
見積もりの精度は、最初に送る資料で変わります。
紙図面をスマートフォンで撮影する場合も、次の点を確認してください。
図面全体を写す
図枠、表題欄、改訂履歴、注記まで含めて撮影します。
部品形状だけを切り抜くと、縮尺、単位、材質、部品番号などを確認できません。
正面から撮影する
斜めから撮ると、長方形が台形に変形し、図面の比率を判断しにくくなります。
可能ならスキャナーを使い、難しい場合は図面の真上から撮影します。
折り目や影を避ける
紙の折り目、照明の反射、撮影者の影が線や数字に重なると、誤読の原因になります。
複数枚に分けて撮影する場合は、重なる部分を残してください。
基準寸法を確認する
画像だけでは、実際の大きさを判断できません。
少なくとも一つ、正確な基準寸法が必要です。寸法が書かれていない場合は、現物を測定して伝えます。
単位を明記する
ミリメートル、インチ、角度などの単位を確認します。
古い海外製設備や輸入部品では、インチ寸法が使われていることがあります。
納品形式は使用目的から選ぶ
CADデータには複数の形式があります。
使用するソフトや加工会社によって、必要な形式が変わります。
| 形式 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| DXF | 2D図面の受け渡し | 多くのCADで読み込みやすい |
| DWG | AutoCAD系の2D図面 | レイヤーや図面情報を保持しやすい |
| STEP | 3Dモデルの受け渡し | 異なる3D CAD間で利用される |
| IGES | 2D・3D形状の受け渡し | 古いシステムでも指定されることがある |
| STL | 3Dプリント | 三角形の面で形状を表す |
| 閲覧・印刷・確認 | CADソフトがなくても開きやすい |
加工会社へ渡す場合は、先に対応形式を確認してください。
「3Dデータで納品してください」だけでは、STEPとSTLのどちらが必要か分かりません。形式名まで指定することで、再変換の手間を減らせます。
確認用として、CADデータと一緒にPDFを納品してもらう方法もあります。
見積もり依頼に書くべき項目
依頼内容を具体的に書くほど、料金と納期を判断しやすくなります。
最初のメッセージには、次の項目を入れます。
- 図面の種類
- 図面の枚数
- 用紙サイズ
- 機械図面または部品図であること
- 2Dまたは3Dの希望
- 元データの状態
- 希望する納品形式
- 寸法変更の有無
- 設計作業の有無
- 希望納期
- 使用目的
- 秘密保持に関する条件
依頼文は次のようにまとめられます。
「古い設備の保守部品について、紙図面1枚をDXFへCAD化したいです。図面はA3サイズで、主要寸法は判読できます。形状変更はありません。加工会社への提出用としてDXFと確認用PDFを希望します。希望納期は○月○日です」
3Dモデルも必要な場合は、使用目的を追加します。
「2D図面からSTEP形式の3Dモデルを作成し、交換部品との干渉確認に使用します」
用途まで伝えることで、必要な作業を判断してもらいやすくなります。
CAD化と機械設計は別の作業
元図面をそのまま描き直すCAD化と、新しい構造を考える機械設計では、必要な作業が異なります。
CAD化に該当する内容
- 紙図面を同じ内容で描き直す
- PDF図面をDWGへ変換する
- 既存の寸法をCAD上へ入力する
- 元図面と同じ形状の3Dモデルを作る
- 既存データの形式を変換する
設計に該当しやすい内容
- 元図面にない寸法を決める
- 部品の強度を検討する
- 材質や公差を決める
- 形状を変更する
- 新しい機構を追加する
- 複数部品の組み合わせを考える
- 加工方法に合わせて形状を変更する
「足りない寸法は適宜決めてほしい」「壊れにくい形へ変更してほしい」という依頼は、単純なトレースではありません。
対象サービスでは設計も相談できますが、依頼前に作業範囲を確認する必要があります。また、主な対応対象は機械部品であり、建築図面は対象外です。
料金は図面の複雑さと作業範囲で変わる
掲載されている料金目安は次のとおりです。
| 作業内容 | 料金目安 |
|---|---|
| 図面のCAD化 | 3,000円から |
| 3Dモデルの図面化 | 4,000円から |
| 3Dモデルの修正 | 10,000円から |
実際の料金は、図面の枚数、形状、寸法数、画質、希望形式、修正内容によって変わります。
価格が上がりやすい条件には、次のものがあります。
- 線や文字が読み取りにくい
- 部品形状が複雑
- 図面枚数が多い
- 寸法や注記が多い
- 複数の断面図が必要
- 大きなアセンブリを扱う
- 特殊な納品形式を指定する
- 短い納期を希望する
- 設計変更を含む
依頼ページの表示価格だけで判断せず、図面を添付して見積もりを受け取ってから購入します。
納期を短くするには資料を先にそろえる
対象サービスの実績上のお届け日数は約8日ですが、納期は作業内容によって変わります。
急ぎの場合は、「できるだけ早く」ではなく、必要な日付を伝えてください。
納期を遅らせやすい原因は、作業開始後の確認待ちです。
特に、次の情報は早めに決めます。
- 不明寸法の回答
- 納品形式
- 図枠の指定
- 単位
- 部品名と図面番号
- 変更箇所
- 参考にする関連図面
- 社内承認を行う担当者
社内で複数人が確認する場合は、意見をまとめてから修正内容を伝えたほうが進行しやすくなります。
修正回数より修正範囲を確認する
サービスの表示上は無料修正回数が無制限となっています。
一方、購入時の案内では、軽微な修正は無料で、大きな変更は相談とされています。
見積もり時に、次の違いを確認してください。
- 寸法や文字の入力ミス
- 元図面との不一致
- レイヤーや線種の調整
- 納品形式の変更
- 依頼後に追加した形状変更
- 新しい部品の追加
- 設計条件の変更
元図面との不一致を直す作業と、依頼者側の都合で仕様を変更する作業は、同じ修正ではありません。
購入前に、無料で対応される範囲と追加料金が発生する条件を確認しておくと安心です。
納品後は寸法と形式を確認する
CADデータを受け取ったら、開けることだけで完了にせず、内容を確認します。
元図面との比較
次の項目を照合します。
- 外形寸法
- 穴径
- 穴の中心位置
- 角度
- 板厚
- R寸法
- 面取り
- 公差
- 材質
- 注記
- 部品番号
重要寸法は、元図面とCADデータを並べて確認してください。
使用環境で開く
納品されたデータを、実際に使用するCADソフトや加工会社の環境で開きます。
別のソフトで開くと、文字化け、線種の変化、尺度のずれ、面の欠落が起こる場合があります。
3Dモデルの形状を確認する
3Dデータは、次の点を確認します。
- 表裏が正しい
- 穴が貫通している
- 不要な隙間がない
- 面が欠落していない
- 単位が正しい
- 原点や向きが適切
- 必要な部品が分かれている
加工に使用する場合は、加工会社にも事前確認を依頼します。
少数の部品図を依頼したい人に向いている
古い機械図面のCAD化は、大量の紙図面をまとめて電子化するケースだけではありません。
次のような小規模な依頼にも利用できます。
- 部品図を1枚だけCAD化したい
- 壊れた部品を再製作したい
- PDFしか残っていない図面を編集したい
- 2D図面から3Dモデルを作りたい
- STEPデータから加工用図面を作りたい
- 古いCADデータを別形式へ変換したい
- 寸法や穴位置を修正したい
- 社内にCAD担当者がいない
- 一時的に図面作成の人手が足りない
大規模な設計会社へ依頼するほどではない図面でも、必要な部分だけ外注できます。
ただし、建築図面、複雑な大型アセンブリ、大規模プロジェクトは対応範囲が異なるため、事前相談が必要です。
古い紙図面を再利用できるデータへ変える
古い機械図面をCAD化する目的は、紙をきれいに清書することではありません。
保守部品の再製作、設備改造、図面の引き継ぎ、取引先変更などに使えるデータとして残すことが目的です。
依頼前には、次の4点を決めてください。
- 2D図面と3Dモデルのどちらが必要か
- CAD化だけか、設計変更も必要か
- どのファイル形式で納品してもらうか
- 不明な寸法を何で確認するか
元図面、使用目的、納品形式、希望納期をまとめて送れば、見積もりのやり取りを進めやすくなります。
図面の劣化が進む前に、今後も使う部品から順番にCAD化する方法もあります。

