オリジナル曲は完成したものの、MVに使えるイラストや撮影映像がない。ジャケット画像もなく、用意できるのは音源と歌詞だけ。この状態からでも、MV制作を依頼することはできます。
ただし、「素材なし」は、何も渡さなくてよいという意味ではありません。映像素材を持っていなくても、完成音源、歌詞、曲の情報、希望する雰囲気は必要です。
素材を自分で用意する部分と、制作側に任せる部分を分けておくと、見積もりや打ち合わせを進めやすくなります。
MV制作における「素材なし」とは
MV制作でいう素材には、次のようなものがあります。
- 楽曲の音源
- 歌詞
- キャラクターイラスト
- アーティスト写真
- 撮影した映像
- 背景画像
- ロゴ
- ジャケット画像
- 歌詞の表示に使うフォント
- 曲の世界観に合う写真や動画
このうち、音源までない状態ではMVを作れません。歌詞を画面に表示する場合は、歌詞のテキストも必要です。
一方、イラスト、写真、撮影映像、背景などの視覚素材は、制作方法によっては依頼後に用意できます。
つまり、「素材なしでMVを依頼する」とは、一般的には次の状態を指します。
- 完成音源はある
- 歌詞は決まっている
- 映像やイラストは持っていない
- 映像の作り方から相談したい
音源と歌詞すら渡さず、曲名だけで制作を始められるわけではありません。
イラストがなくてもMVを作る方法
MVは、人物やキャラクターのイラストを必ず使うものではありません。
文字、図形、写真、映像素材を組み合わせても、曲の雰囲気を表現できます。
| 制作方法 | 主な見せ方 | 向いている楽曲 |
|---|---|---|
| リリックビデオ | 歌詞の文字を動かす | 歌詞をしっかり読ませたい曲 |
| タイポグラフィMV | 曲名や短い言葉を大きく見せる | テンポが速い曲、印象的な言葉がある曲 |
| 抽象映像 | 光、色、図形、粒子などを動かす | インスト、電子音楽、雰囲気重視の曲 |
| 写真・映像素材 | 風景や小物の映像を組み合わせる | 実写に近い空気を出したい曲 |
| コラージュMV | 写真、紙、文字などを重ねる | 個性的で手作り感のある曲 |
| 3D・モーション映像 | 立体的な文字や物体を動かす | 未来的、重厚、幻想的な曲 |
どの方法が合うかは、曲のジャンルだけでは決まりません。
同じバラードでも、歌詞を読ませるリリックビデオと、風景映像を中心にしたMVでは印象が変わります。曲を聴いた人に何を残したいかを先に考えます。
音源は制作途中ではなく完成版を渡す
MV制作に使う音源は、できるだけ公開予定の完成版を用意します。
制作途中で音源を差し替えると、歌詞を出す時間や場面の切り替えがずれるためです。
たとえば、次の変更でも映像を直す必要が出ます。
- イントロを短くした
- 間奏を長くした
- 最後の繰り返しを削った
- 歌い出しの位置を変えた
- 曲の速さを変更した
- 無音部分を追加した
音の調整や歌声の修正が残っている場合は、いつ完成版を渡せるか伝えます。
仮音源で制作を始める場合も、完成版で曲の長さが変わらないことを確認しておきます。
歌詞はコピーできる文章で渡す
歌詞は、画像や手書きメモではなく、コピーできる文章で渡します。
テキストファイル、文書ファイル、メッセージへの貼り付けなど、制作者がそのまま使える形が適しています。
歌詞を渡す前に、次の点を見直します。
- 漢字とひらがなの使い分け
- 英字の大文字と小文字
- 句読点を表示するか
- 繰り返し部分を省略していないか
- 読み方が特殊な言葉
- あえて違う読み方をする漢字
- 二人以上で歌う場合のパート分け
歌詞カードとして正しい文章でも、歌っている発音と画面に出す表記が違う場合があります。
たとえば、「明日」を「あす」と表示したいなら、最初から指定します。英語の歌詞も、音源を聴いた制作者に書き起こしてもらうのではなく、正しい文章を渡したほうが安全です。
曲の世界観は短い言葉に分けて伝える
「かっこよく」「エモい感じ」「おしゃれに」と伝えるだけでは、完成形を絞れません。
同じ「かっこいい」でも、黒を中心にした重い映像と、明るい色を使った速い映像では方向が異なります。
次のように、項目ごとに言葉を分けます。
色
- 黒と赤を中心にしたい
- 青や紫を使いたい
- 明るいパステル調にしたい
- 色数を少なくしたい
- 白黒に一色だけ加えたい
動き
- ゆっくり見せたい
- 曲に合わせて細かく切り替えたい
- サビだけ動きを強くしたい
- 文字を激しく動かしたくない
- カメラが揺れる演出は避けたい
雰囲気
- 不安で落ち着かない
- 夜の街を歩いている
- 懐かしい記憶
- 無機質で冷たい
- 明るいが少し寂しい
- ライブ前の高揚感
文章を長く書く必要はありません。色、動き、雰囲気をそれぞれ数個ずつ伝えるだけでも、映像の方向を決めやすくなります。
参考動画は一部分だけを参考にする
希望に近いMVがあれば、URLを共有します。
ただし、参考動画を丸ごとまねてもらうのではなく、どの部分が近いかを添えます。
- 冒頭の静かな見せ方
- サビで文字が大きくなる演出
- 歌詞を出すタイミング
- 背景の色づかい
- 写真が切り替わる速さ
- 曲名を最後に出す構成
- 縦書きの文字
- 手書き風の質感
参考動画は1本から3本程度に絞ります。
まったく違う雰囲気の動画を何本も送ると、どれを優先するのか分かりにくくなります。複数送る場合は、「色は1本目、文字の動きは2本目」のように分けます。
素材作成まで頼む場合に増える作業
映像素材を持っていない場合、編集以外の作業が必要になります。
- 映像全体の構成を考える
- 背景画像を作る
- 使用する写真や映像を探す
- キャラクターや小物を描く
- 文字の見せ方を設計する
- 2Dや3Dの動きを作る
- 曲に合わせて素材を切り替える
- サムネイル用の画像を作る
手元の素材を並べて編集する依頼と、素材の作成から頼む依頼は内容が異なります。
見積もりを頼むときは、「素材なし」とだけ書くのではなく、何を持っていて何を持っていないかを伝えます。
たとえば、次のように整理します。
- 完成音源:あり
- 歌詞:あり
- ロゴ:なし
- イラスト:なし
- アーティスト写真:なし
- 参考動画:あり
- 映像の構成:おまかせ
- YouTube用サムネイル:必要
この形なら、制作側も必要な作業を判断できます。
フル尺と短い告知動画は分けて考える
完成したMVをSNSで告知する場合、横長のフル尺動画をそのまま投稿するだけでは使いにくいことがあります。
公開先によって必要な形が変わります。
| 使用場所 | よく使われる形 |
|---|---|
| YouTube | 横長のフル尺動画 |
| TikTok | 縦長の短い動画 |
| Instagramリール | 縦長の短い動画 |
| X | 横長または縦長の短い告知動画 |
| ライブ会場 | 会場画面に合わせた横長映像 |
| 配信サービス告知 | ジャケット画像を使った短い映像 |
フル尺MVとは別に、サビを使った短い告知動画が必要になる場合は、最初に伝えます。
完成後に縦長へ変更すると、文字や映像の配置を組み直さなければならないことがあります。
素材を作るときは使用範囲も確認する
制作側が画像や映像を用意する場合は、その素材をどこまで使えるかを確認します。
- YouTubeへ投稿できるか
- 広告へ使えるか
- 収益化した動画へ使えるか
- 音楽配信の宣伝へ使えるか
- ライブ会場で流せるか
- サムネイルへ流用できるか
- 他のSNSへ再投稿できるか
フリー素材でも、すべての用途に自由に使えるとは限りません。素材サイトの利用条件や、制作者が用意した画像の扱いを確認します。
AIで作った画像を使う場合も、公開先や商用利用の条件を聞いておきます。
仮制作の段階で見る部分
MVの方向を後から大きく変えると、作り直す部分が増えます。
仮制作や短いサンプルを確認できる場合は、細かな文字位置より先に全体の方向を見ます。
- 曲の雰囲気と映像が合っているか
- 文字が読みやすいか
- 動きが激しすぎないか
- サビの見せ方が弱くないか
- 色づかいが希望と合っているか
- 歌詞を出すタイミングが合っているか
- 避けたい表現が入っていないか
「何となく違う」とだけ伝えても直す場所が分かりません。
「色が明るすぎる」「文字の動きが速い」「サビでもう少し画面を変えたい」のように、違うと感じた理由を分けて伝えます。
素材なしでMV制作を依頼する前に整理すること
見積もりを頼む前に、次の内容を一つのメッセージへまとめます。
- 楽曲名
- 完成音源
- 歌詞
- 曲の長さ
- アーティスト名
- 作詞者、作曲者などの表記
- 希望する公開日
- MVを公開する場所
- 横長か縦長か
- フル尺か短い動画か
- 曲の色や雰囲気
- 参考動画
- 参考にしたい部分
- 入れたくない表現
- 持っている画像やロゴ
- 制作してほしい素材
- サムネイルの要否
- SNS用告知動画の要否
すべて決まっている必要はありません。
分からない項目には「未定」「提案してほしい」と書きます。何が決まっていないのかが分かれば、打ち合わせで決める順番を作れます。
まとめ
オリジナル曲のMVは、イラストや撮影映像を持っていなくても依頼できます。
最低限必要なのは、完成音源、歌詞、曲名やクレジット、希望する雰囲気です。映像素材がない場合は、リリックビデオ、文字モーション、抽象映像、写真や動画素材などを使って構成できます。
依頼時には「素材なし」とだけ伝えず、持っているものと持っていないものを一覧にします。素材作成、映像構成、サムネイル、SNS用動画まで、どこから任せたいのかを分けておくと、見積もりの内容も分かりやすくなります。

